名大、燃料要らずで軌道制御できる小型衛星を開発

By 2022年8月22日NEWS

2022年8月25日 10時30分

名古屋大学は23日に2022年10月7日に内之浦宇宙空間観測所から宇宙航空研究開発機構(JAXA)のイプシロンロケット6号機によって打ち上げられる予定の4.4kgの超小型衛星(キューブサット)「MAGNARO(MAGnetically separating NAno-satellite with Rotation for Orbit control)」を公開した。

「MAGNARO」2機に分離すること、エンジンや燃料を一切用いず、地球磁場やわずかに存在する空気効力などを用いて姿勢制御や編隊形成を行うということも併せて発表された。

開発は、名大大学院 工学研究科の准教授らの研究チームによるもの。また今回の研究は、2020年度から始まった科学技術振興機構の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同(育成型)「超小型衛星における回転分離を用いた編隊形成と宇宙実証機の研究開発」の支援のもとで行われた。

近年、複数の衛星を連携させて1つのミッションを行う、編隊飛行による新しい宇宙利用が増加している。その際に重要となるのが、複数の衛星の相対位置を調節する軌道制御技術だという。

従来の考え方では、宇宙環境による外乱の影響を受けやすい小型衛星において、エンジンなどの軌道制御機器が必須とされてきた。しかし、小型衛星は複数機の開発や打ち上げが比較的容易という大きなメリットがあるが、電力、質量、スペースの制約が厳しく、すべての小型衛星でエンジンを搭載できるわけではない。

そうした中で、准教授らは宇宙環境からの外乱を抑圧するのではなく、その外乱の特性に着目することにしたという。その理解を深めることで、むしろ宇宙環境を利用して衛星の編隊を形成し維持する、という新しい発想をもって研究を進めてきたとする。そして今回、革新的衛星技術実証3号機のうちの1機として、これまでの研究成果を軌道上で技術実証するため、MAGNAROが開発された

MAGNAROは「MAGNARO-Tigris」と「MAGNARO-Pisics」からなり、打ち上げ時には磁気の力により両衛星は接続されている。衛星には「磁気トルカ」(電磁コイル)が搭載されており、地球磁場と作用させて発生したトルクによってスピンさせ、安定させる仕組みだ。そして衛星の機上で自律的に姿勢と軌道の決定を行い、適切なタイミングで分離させ、編隊が形成されるという。

さらに、軌道上にわずかに存在する空気分子と衛星との作用により、空気抗力を発生させるとする。姿勢制御で衛星の正面面積を変え、空気抗力を調整することで編隊を維持するとした。これらの編隊形成や維持における軌道制御において、エンジンや燃料を使用しない軌道上実証実験を実施する計画となっている。

MAGNAROエンジンや燃料を使用しないため、衛星内のスペースに余裕があることから、小型衛星であっても望遠鏡などのミッション機器を搭載することが可能だという。さらに、燃料切れを心配する必要がなく、より長期間の稼働を実現できることが期待されるとしている。

また、MAGNAROの研究開発にあたっては、宇宙工学における学生の教育にも力を入れる試みが行われたとする。単純に機器を購入し組み合わせたり、各種試験をすべて業者などに依頼したりするのではなく、教員の指導のもと、学生自らが電子基板といったハードウェアやソフトウェアなどを勉強して理解し、宇宙環境を考慮した上で設計、開発を行った。

試験の計画立案や予定管理などのマネージメントも学生が行うなど、研究と共に教育の一環として実施されたとしている。

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